果実の外に種がある?いちごの不思議
甘くておいしいいちご。いちごは、ほかの果物と比べると少し不思議な姿をしています。
一見、赤くてやわらかい果実の外側に小さな種子がたくさんくっついているようにみえます。
じつは、わたしたちが食べているいちごの赤色の部分は果実ではなく、小さなつぶつぶも種子ではありません。
では、わたしたちはいちごのどの部分を食べているのでしょうか。小さなつぶつぶの正体は何なのでしょうか。
いちごの不思議
果実の中には種子があり、フルーツの場合はとくに、種子のまわりを発達した肉厚の果肉が包んでいます。
ブドウや柿、さくらんぼなどをイメージしていただくとわかりやすいのではないでしょうか。
果実は、めしべの子房がふくらんでできます。
まだ果実が大きくなる前、めしべの下の方にある小さなふくらみが子房です。
子房は「子房壁(しぼうへき)」とよばれる皮と、その中にある「胚珠(はいしゅ)」とよばれる部分でできています。
受粉すると胚珠の部分は種子となり、子房壁は発達してふくらみ果肉となります。
このようにして、種子が果肉に包まれたおなじみの果実ができます。
そこから考えると、果実の外側に小さな種子がたくさんくっついているようにみえるいちごは少し不思議な姿です。
どうして種子が外側にあるのか、疑問に思った方もいるのではないでしょうか。
じつは、わたしたちが食べているいちごの赤色の部分は子房がふくらんでできる「果実」ではなく、子房とは別の部分がふくらんでできたものです。
そして、種子のように見える小さなつぶつぶは、正しくは種子ではなく果実です。
なぜいちごはこのような不思議な姿をしているのか、その答えは、いちごの花にあります。
ちょっと変わったいちごの花
ふつう、めしべは1つの花に1本ついているので、1つの花からできる果実は1つだけです。
しかし、いちごの花には、1つの花にたくさんのめしべがついています。
いちごの花をよくみると、花の真ん中あたりに小さなでっぱりがあり、そこからたくさんのめしべが伸びていることがわかります。
この小さなでっぱりは「花托(かたく)」とよばれていて、茎の先端が厚く変化したものです。
花托は、たくさん伸びるめしべの土台のような役割をしています。
花托から伸びる1つ1つのめしべには、ほかの花と同じように子房があり、受粉するとそれぞれに果実ができます。しかし、いちごの子房はめしべが受粉してもふくらみません。
その代わりに、めしべの土台となっていた花托が受粉を合図として大きくふくらんでいきます。
花托が発達しふくらんでいくのに対して、子房はふくらまず、皮が薄いまま硬くなり小さな果実ができます。
薄い皮の小さな果実、これがいちごの表面にあるつぶつぶの正体です。
一方、大きくふくらんだ花托は、その後緑色から赤色へと色が変わっていきます。
わたしたちが普段目にするいちごの姿は、このようにしてできます。
また、いちごの表面に細かい毛がたくさん生えていることにお気づきの方もいるのではないでしょうか。
どこから毛が生えているのか、いちごをよく見てみると1つ1つの果実から1本ずつ生えていることがわかりますが、この毛はいちごのめしべの名残りです。
いちごの種子はどこにある?
いちごの赤色の部分は花托が発達したもので、小さなつぶつぶが果実であることがわかりました。
では、いちごの種子はどこにあるのでしょうか。
種子ができるのは果実の中です。
いちごの場合も同じで、小さなつぶつぶの果実の中に種子がつくられています。
果実が小さいので難しいかもしれませんが、皮を割ってみると中から種子が1つ出てきます。
きれいないちごの秘密
スーパーなどで目にするいちごはどれもきれいにふくらんでいますが、「きれいにふくらんだいちご」をつくるのは簡単ではありません。
花托は1つ1つのめしべが受粉することによってふくらんでいきます。
受粉できなかっためしべがあれば、その部分はきちんとふくらみません。
すると、いちごはでこぼことしたいびつなかたちになってしまいます。
わたしたちが食べているいちごがきれいな円すい状のかたちをしているのは、たくさんあるめしべがきちんと受粉しているからです。
とはいえ、すべての花ですべてのめしべをきれいに受粉させるのは、人の手では困難です。
ではどのように受粉させているのかというと、農家ではミツバチなどの力を借りています。
ミツバチは花に降り立つと、花の上をぐるぐると回りながら蜜を集めます。
このとき、ミツバチのからだについている花粉がめしべにくっつきます。
ミツバチのおかげで、たくさんあるめしべにもまんべんなく受粉させることができるわけです。
家庭菜園でいちごを育ててみるとなかなかきれいなかたちのいちごになりません。
これは受粉がきちんとできていないからで、ミツバチたちのはたらきの大きさに気づかされます。
きれいなかたちをしたいちごは、ほかの生きものの手も借りてつくられています。
いちごのほかにも 花托を食べるフルーツ
子房以外の部分が果肉となるのはいちごだけではありません。
リンゴや梨も、わたしたちが食べているのはいちごと同じで、花托が発達してふくらんだ部分です。
リンゴや梨の場合は、芯として捨てる部分が果実で、そのまわりを包み込むように花托が発達しています。
発達したフルーツの果肉は、もちろん人の手で改良されてきた長い歴史もありますが、本来動物に食べてもらって種子を運んでもらうことを目的としています。
ブドウや柿、さくらんぼなどでは子房がふくらんで果肉ができ、いちごの場合は花托がふくらんで果肉となったわけです。
ふくらむ部分は違いますが、由来が子房でも花托でも、おいしく食べられることに代わりありません。
果肉となる部分はフルーツによって実に多様性に富んでいて「食べてもらって種子を運んでもらう」ためのフルーツたちの頑張りがうかがえます。
ふくらんだ花托に果実がついているいちご
いちごの赤く柔らかい部分は花托がふくらんだもので、表面の小さなつぶつぶ1つ1つがいちごの果実です。
ブドウなどと違った姿をしているのは、ふくらむ部分が違うからです。
普段何気なく食べているフルーツですが、いちごのほかにも、いろいろな姿やかたちをしたフルーツがあります。
それぞれのフルーツがどのようにしてつくられるのか、考えてみるのも面白いかもしれませんね。