【しゅうたの畑×蝶結び 対談①】キックボクシングと畑仕事。芯の強さを身につけ、どん底状態から回復するまで【青木秀太さんはこんな人】
福岡県うきは市で、「しゅうたの畑」プレゼント農家として活動する青木秀太さん(以下、しゅうたさん)。蝶結び店主の杉下との出会いは、オンライン検索で蝶結びを発見したしゅうたさんが、「蝶結びの想いが心にビンビン響いてきた」とすぐに、杉下宛にDMを送ってくれたのがはじまりでした。めざすビジョンが同じですぐに意気投合、「どうしても直接お話をうかがいたい!」と半年の年月を経て念願のご対面。
しゅうたさん自身について、またギフトに込める想いについて、ふたりが熱く語り合います。
まずは第1弾。しゅうたさんが「しゅうたの畑」をおこすに至るまでをお聞きしました。波乱万丈な人生をどうぞ。読むと生きる元気がわいてきますよ。
キックボクシングに憧れた子ども時代を経てプロデビュー、26歳で念願のチャンピオンに
杉下:農業をはじめて3年。以前はどんなことをしていたんですか?
しゅうた:子どもの頃は、身長もちっちゃくてヒョロヒョロでした。小学校で並ぶと、一番前にしかいたことがないんです。ここら辺は田舎だから、ヤンキーしかいなくて、とにかくこわかった。でも自分が小さく弱いからと言って、ヤンキーになって悪ぶろうとも思わなかった。そこでたまたま飛び込んできたのが、K1なんです。リングがかっこよく見えて、この舞台に立ちたいと思うようになりました。K1のビデオが擦り切れるくらい何度も見ました。そのときにもう、高校を卒業したら上京してジムに入会、キックボクシングをするって中学生の時から決めてましたね。
杉下:すごい、決断が早いですね。
しゅうた:高校2年生のとき、東京から福岡に帰ってきた人がキックボクシングジムを開いたんですね。「運命だ!」と、すぐに入会しました。高校3年生の頃にはプロのライセンスをとって、プロデビュー。オーナーとのマンツーマン指導を受けているうちに師弟関係になっちゃって、上京せずずっとここでがんばろうってなったんです。
高校卒業後は、子どもが好きで保育士志望だったこともあり短大に入学。しかし諸事情で、福祉の道に進むことに。卒業後も介護職のアルバイトをして食いつなぎながら、キックボクシングを続けました。子どもの頃にあこがれた格闘家の「内面の強さ」をめざして追いかける日々。その地道な努力が10年後に実を結び、見事「チャンピオン」に。引退を決意します。
杉下:保育や介護といった優しい面と、キックボクサーっていうストイックな面、愛する顔をどちらも持ってるのが、しゅうたさんの魅力だよね。ギャップ萌え。ヤンキーじゃなく、キックボクサーに憧れたっていうのがいいですね。
しゅうた:ボクサーたちも覚悟を背負ってやってるわけです。そこがかっこいいですよね。キックボクシングは、年に3〜4回しか試合がないんです。スポットライトが当たるのは年に数回。試合がない間にも地道なトレーニングを積むスポーツなわけです。惹かれたのは、彼らの芯の強さ。それを身に着けたいから10年も続けられたんだと思います。
農業とキックボクシングの、意外な共通点
杉下:お話うかがってると、キックボクシングで鍛えた根性があって今がありますよね。唐突ですけど、農業とキックボクシングって似てませんか?
梨で例えますね(笑)。スポットライトにあたる収穫作業は秋だけ。でも1年通すと、春に芽吹き花が咲いたら受粉して、夏は実のクオリティ管理をして、冬は来年に向けて剪定作業。梨として食べられるってほんまに一瞬(笑)。しゅうたさんが手を施した地味で見えない時間があってこその、梨なんですよねー。実りまで耐え忍ぶ精神力がないとなかなかできない。本当に大変な仕事です。
しゅうたさん:へー、気づいてなかったけど、確かにそうだな。1年間耐え忍んで、収穫する時期はほんのちょっと!
杉下:ケガするときもあれば、思うような調子が出ないこともあるやろうし。農業でいうと、台風であったりその年の気象条件だったり。環境はとくにコントロールできないですよね。
しゅうた:実りの時期まで耐え忍んでがんばれるのは、その先に、梨を楽しみにしてくれている人が待っているから。これは間違いないです。キックボクシングのときも、チャンピオンになりたいからはじめた。そこから応援してくれる人がどんどん集まってきて、最終的に「その人達と天下とったぜ!」と一緒にチャンピオンを勝ち取りたいという意識に変わっていきましたね。
人を“支える”のが介護、人を“喜ばせる”のが果樹農家
キックボクシングを引退してからは、介護職に10年従事したしゅうたさん。今は農業をやっていますが、どちらも携わったからこそわかったことがあると言います。
しゅうた:福祉と農家の仕事。ちょっと違うところがあるなってわかりました。どちらも人に対する仕事なんですけど、福祉は“人を助ける・支える”タイプの仕事なんですね、いっぽうで農家は“人を喜ばせる”タイプの仕事だとわかりました。キックボクサーは、どちらかというと喜ばせる仕事。だから、自分は「人に喜んでもらいたい」気持ちが強いし、それを叶える仕事がいちばん合っているなって、しみじみ感じますね。
杉下:福祉の仕事をしていて、物足りなさを感じたってことなんですかね。農業をやって、その物足りなさの正体がわかったというか。
しゅうた:そうそう。でも楽しかったですよ。じいちゃんばあちゃんと遊んでいた頃ももちろん。でも、管理者になってから気持ちが落ち込みはじめたんです。現場から離れるとダメでしたね。だいぶつまらなくなりました。リアルに人と関わることが生きがいなんだなと今となっては思いますね。
「梨の木を全部伐る!」がターニングポイント。うつ状態回復のきっかけになった父親の宣言
介護の仕事は順調にいっていたものの、部署異動を命じられます。おじいちゃんおばあちゃんを支える立場から、現場管理を担うことに。これを機にしゅうたさんの心が枯渇していきます。
しゅうた:福祉の仕事で管理者になって、人のマネジメントとかほんとにうまくできなくて、心を病んでうつ病状態になってしまったんです。その弱っているときに母が病気で倒れました。そのとき親父が突然言い出したんです。「梨の木を全部伐って、農家辞めるぞ!」と。
杉下:全部伐るってなかなかの覚悟がいること…!
しゅうた:そうなんですよね。果樹農家にとっての資産ですから。野菜と違ってその年にならないので、収穫できるのは5年後とか8年後とか。立派なものになるのは10年後とかになるので。そんな木を全部伐ってしまうと。
僕は、農家の息子として生まれたんですけど。農家の仕事が大嫌いでした。その頃の僕の農家のイメージは「かっこ悪い」「汚い」「いそがしい」。休みの日の手伝いも嫌でした。子供会の集まりにも連れていってもらえず、とにかくさみしかったから「農家にはならない」ってずっと思ってたんですよ。
でも親父の覚悟の言葉を聞いたら、子どもたちが喜んで梨や桃を食べる笑顔が浮かんできて、それがなくなるのはさすがに寂しいと思いました。心が病んでいるときでさえも。そうしたら、不思議にとりあえず畑をやってみようって思ったんです。
実際に畑をやると、心から楽しくて仕方がない。それこそ剪定の知識なんて皆無です。習って、そういう仕組みなのかと。植物の命はすごいと体感しました。農業の仕事は、命と向き合ってるんです。種をまいて成長する過程をずーっと見ているわけです。やっと収穫してお客さんが「おー、おいしいね」って喜んでもらう感覚とか。すごく楽しい仕事だなと。
そして、土や緑にふれていると、病んでいた心がどんどん癒やされて、回復していきました。同時に福祉の仕事のほうも順調になって。畑に出たらすべて好転したんですね。もともと独立心があったんで、農家の選択肢ははじめはなかったけれど、機械や農機具はある、土地はある、すぐに実をつけてくれる果樹もそろっている。まったくのゼロではなくて、リスク少なく起業できるならやってみる価値はあるかなって。そこまで心が回復しました。子どもが2人いて、嫁がいて、38で独立するって、今思うと思い切ったチャレンジですよね。
杉下:奥さんはどうでした?応援してくれましたか?
しゅうた:病んでいる自分を見るのがかなりつらかったみたいです。あのときは仕事から帰ってきて、押入れに入って、ずーっと出てこないんですよ。その姿を見る嫁とか子どもってつらいでしょ(苦笑)。そんなどん底状態の僕が畑に出て回復していく姿を見て、「もしかしたらしゅうたくんには畑が合ってるんじゃない?」と、ポンと背中を押してくれましたね。
未来に向かって成長する植物に、心を動かされた
家族の支えとともに福祉の仕事にも復帰。それほど心の回復にいい影響を及ぼした農業の仕事に、しゅうたさんは具体的にどういったことを感じたのでしょうか。
しゅうた:農業をやってわかったんですけど、植物は、未来に向かってどんどん成長しているんですね。特に野菜は、半年〜1年くらいのスパンで実る。命のサイクルというか、命の過程を感じやすいんですよ。5ヶ月の時間をかけてぐんぐんと成長していく。いっぽうで枯れていくのは一瞬なんです。元気に成長している姿を見ることは、きっと人間の心にいいんですよね。植物も未来に向かって子孫を残すために、前向きにがんばってるから。
なおかつ植物の中には、強い子がいたり弱い子がいます。あと雨風の困難に遭ったりしますよね。がんばっている人を見ると、自分もがんばってやろうとか思うじゃないですか。同じ気持ちをひしひしと植物から感じ取ることができるんです。この子弱いなと思う子も、途中から復活して強くなったり。そういう子たちもいて励まされますよね。
杉下:どん底の自分の姿と重ねてた部分もあったかもしれないですね。
しゅうた:おそらくそうでしょうねー。人間の本能とか本質的に、自然にふれることは心にいいんですよ!コンクリートの上だけでは生きていけないですよ。ラピュタのシータも言ってたじゃないですか、「土から離れたら生きられないのよ!」ってね。
完全に心を回復させたしゅうたさん。お祖父さんとお父さんの想いを引き継ぎ、「しゅうたの畑」でプレゼント農家として新たなスタートをきります。
▶後編はこちら「誰かに喜んでもらいたい」が原動力。ギフトへの強い思い入れとは